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2008年10月09日

『いつか来る、終わりのときまで』

『いつか来る、終わりのときまで』
人で眠る夜。
 これがあたしの日常だけれど、今はもう昔のように孤独を感じて、息をひそめ物陰からこちらをじっとみつめる、自分を闇へと追い込む何かの幻覚に怯え、祈るように眠りを待つことはなくなった。
 眠っているとき、不安で呼吸が止まり、苦しさで何度も何度も深夜に目覚めることもなくなった。

 きっと、あなたに出逢ったから。

「いつか一緒にみた月をおぼえている?」
 あの頃はまだ、二人こんなに大切な存在になるなんて思ってもいなかった、否、本当は初めて出逢ったときから「この人なら」という予感はあったのかもしれない。

「大好きだよ」
 幼すぎる今のあたしには、この気持ちを伝えるのにこれ以上の言葉が見つからない。

 きっとこの上には「愛してる」という言葉がふさわしいのだと思う。けれど、あたしには『愛』なんてものはわからないし、わからないものをわからないまま使っていくうちに「わかったつもり」になり、本来の意味や価値からどんどん遠ざかっていくような気がして怖いのだ。

 それくらい、きっと一人一人の人間が一生をかけて、大事に大事にして、あたためて、あれでもないこれでもないと、パズルのピースを探す作業のように、日常の色んなものを『愛』という空白にあてがって、やっと最後に見つかるひとつのピースこそが本当の意味での『愛』なのだとあたしは思っているから。

 もしかしたら、みつからないかもしれない。
そんな不安と闘いながら、人はまた次の人への希望をこめて進んでいくんだと思う。

 だから、あなたと出逢えて芽生えたこのまだ小さな小さな、幼稚な『愛』の芽をあたしは大事にしたいと思う。

「どうか、あなたがこの芽が咲いたとき、受け取ってくれますように」
そんな祈りの日々、そんなことさえも幸福に思えるなんてあたしは知らなかった。

 他人の気持ちなんて、見えないものだから。あれこれ一人で考えて不安になったり悲しくなったりするけれど、どんなに考えたところで『答え』なんてものはでるはずもない。

今はただ、「あたしがあなたを好きだ」ということだけで充分だと思える。

 この気持ちが本当の意味で叶わなくても、こんな穏やかな時間を、幸福をくれたあなたを、あたしはたぶん一生忘れることはないだろう。

「大好き」

 一人眠る夜、どんなに思ってもその手に触れることはできない二人だけれど、いつだってあなたを思っているよ。

 どうか、この手を放さないで、もしあなたがあたしと同じだけでなくても、少しでも一人眠る夜あたしを思い出してくれたりするのであれば。

 いつか決められた『終わり』がやってくるのだとすれば、その日まで、あたしはあなたのそばにいたい。

「大好き」

 嬉しくて、幸福で、涙があふれたのは生まれて初めてかもしれない。
 何度でも言うよ。他に言葉を知らない馬鹿な九官鳥のように、何度も何度も繰り返しこの言葉をあなたに贈るよ。

「大好き」

 例えあなたが、あたしと同じ気持ちでなくても。











森儀



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